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[変革の瞬間−2]
「見えざる手」のベクトル
「見えざる手」のベクトル

1年くらい前にミニコンの雄DECがコンパックに買い取られた。
 DECの経営者や従業員は、そんなことになるための戦略で過去営々と働いてきたというのではない。
 経営陣のなかでも、本社のごく限られた人たち以外は、われわれと同様に、新聞報道で初めて知ったはずである。DECの営業マンに、「なぜ事前に教えてくれなかったのか」と言ってみても始まらない。
 コンピュータのようなシステム商品は、自動車や家電製品と違って、買って使うのではなく買って育てるものである。だから、新しいものと丸ごと交換することができない。コンピュータを買った先の会社が潰れてしまったらそれこそ大変なことになる。
 ユーザーは、当然のことながら、潰れない会社を選んで買うことになる。その結果、寡占化が進んで行くことになるのだ。
 そして、コンピュータ会社は存続するために、永続的な利益確保のストーリーをつくり、ビジネスの継続性を市場に印象づけていかなくてはならない。
 DECにはそれができなくなり、コンパックのストーリーのなかに吸収されることとなったのだろう。
 DECが、コンパックに買われるというようなことは、情報産業に従事するものにとって大変重要な出来事である。当然、そのような情報は事前に知りたいわけだが、だれに聞いたらはっきり分かったのだろうか。
 アメリカの良き経営者は、長期のビジョンに基づいて戦略を立て、実行する。われわれはそれを聞きながら、会社の方向を知り、その善し悪しを判断していく。会社の金回りが問題になると、最初は予算のカットなどからくる戦略変更に現われてくる。その程度の処置では立ち行かないことがわかると、企業は通常のビジネス戦略とは無関係に行動するようになる。
 情報産業では、そんなことが少しでも漏れたら、ビジネスの継続性が疑われて今日明日の収入に影響するから、ことは極秘裡に進められる。だれに聞いてもそんなことを知っている人はいないし、極秘裡にことを進めている当事者ですら、「なぜそんなことをやっているか」と問われれば「金が回らなくなったから」と答えるしかない。みんなそんなことはやりたくないのにことは進行するのである。
 ここに働くベクトルを“見えざる手”と言いたい。
 メインフレーム時代にはIBMが神様だった。しかし、これからの情報産業は、「見えざる手で、企業の方向が考えてもいなかった方向に変わる典型的な業界」になるのではなかろうか。
 パソコンは、ユーザーを大変利口にする切っ掛けをつくった。「1社に頼っていると危ない」という教訓から、物語の主人公を「会社から環境に移せ」と示唆したのである。

1999年 5月17日

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