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情報の海とネットワーク組織

 組織を動かす基本は、目的とそれを取り巻く環境の狭間で何をなすべきかを決定し、その決定にそって実行することです。文明以前の狩猟にしても農業にしても、激しく動く環境の中で、人はそのように行動せねばならなかったと考えられます。
 戦後の日本は欧米の環境を取り入れて、製造輸出立国を目指す、という大局的決定をなし、それを共通意識として産業を発展させてきました。その長期にわたり有効だった大局観に守られて産業が大成功を収めてゆく過程の中で、我々の日々行う決定は、新しい技術によって、物づくりをいかにより効率的に行うか、どうそれを効率的にサポートしてゆくか、というような、所謂HOW Toものに場を移してゆき、大局的な決定をする必要がありませんでした。ところが1990年代になると、世界の環境が大きく揺れ動き始め、今まで我々を守っていた大局観が通じなくなりました。揺れ動く環境の中で、我々はHow To ものから脱却し、もう一度基本にたちかえって「大局的な決定をなしながら、それに基づいて行動をする」という行動パターンが企業レベルでも必要になってきました。

 さて、その様な経営環境を念頭に技術に目を向けると、今あるITインフラとその技術環境は組織の日常の活動状況をリアルタイムでデジタル化し、それを必要に応じて組織の隅々にまでは言うにおよばず、世界中で共有することが出来るようになりました。そのようにデジタル化されたリアルタイムの情報郡を「情報の海」と呼んでおくことにしましょう。そうなると、我々が日々行わねばならないデシジョンに必要な情報はこの情報の海からいつでも取り出せることになるし、会議を招集するまでもなく、必要に応じてオンラインのコミュニケーションを交えて決断をすることも出来ます。特に今までホワイトカラーといわれた役割の仕事は、この情報の海が仕事場になるといえます。その時重要なのは、情報の海をどう使って組織を操縦するのか、その使い方です。その様な状況をイメージ化したのが図1です。

情報の海と組織;-組織情報のデジタル化-情報制御点の転換・コンピュータから人の頭脳へ

 さて、実際には全ての活動が情報の海にされるわけではなく、現場の人の頭に残っている情報もあります。そこで、そのイメージをもう少し現実の組織に近づけたのが図2です。ITの時代は情報システムを人側がそれをどう使うのかによってシステムの機能的意味が違ってきます。図2はシステムの「つかいかた」のレベルのイメージを描こうとしたものです。
 実はこの図は豊橋にある大三紙業( http://www.daisan.com/ )という、従業員200名でラミネート印刷をした、冷凍食品等を入れる、いろいろな袋を作っている会社のシステムとその使い方をみて、逆算的に図1に繋げる図としてでてきたものです。現社長の松井さんは、1980年の終わりにカナダ留学中にインターネットにふれて、まったく違った時代がきたと感じられ、帰られてからウェブ仕様のシステムを構築をされました。そのとき作るシステムとして要求されたことは;

  • 経営の基幹である生産管理を中心に情報化すること
  • 組織運営に必要な判断のための情報化をすること

ということでした。この会社の生産工程は;

  • 受注
  • グラフィックデザイン(リピートオーダーではこれは不要)
  • 製版
  • 印刷
  • 巻き返し検品
  • ラミネート
  • スリット
  • 出荷

 ということで、各工程に責任を持つ「部課」があります。その「部課」にあたるものが図2の橙色の三角形にあたると考えてください。営業は受注をするとその仕様の情報を画面から打ち込みます。結構細かいので3-40分かかるのだそうですが、それによって納期をはじめ、必要なインクや印刷用シリンダー等々資材の情報が全社で共有されます。それをみて各「部課」は必要なデシジョンをし、その結果を情報化する、というふうにして、結果として各部課の状況がリアルタイムでディジタル化されるため、各「部課」は自分に与えられた機能的なミッションに必要な情報(紙ベースのときはそれだけだったのですが)に加えて、その作業を取り巻く背景の情報がリアルタイムで見れるようになっています。そのように;
 ・自分の機能遂行に必要な情報に加えて、その背景になる情報を知れる
ことによって、作業に精神的な?余裕が出ると同時に、いろいろ建設的なフィードバックが他部署にかかって、企業全体のパフォーマンスが飛躍的にあがっただけでなく、事務部門の残業がなくなったり、家での作業が可能になったり、お客さんに対するリアルタイムでの受注処理状況の開示等、今まで不可能だったことができるようになったとのことです。図2の話にもどると、現場をつなぐ調整的な部分が、紙ベースの時代の物理的な拘束から開放されて、リアルタイムで自在にできるようになったことで、その「使い方」しだいで多大な経営効果を生めるということです。松井さんはこのシステムを何年か使ってみて、定量的な資料はないものの、感覚的には工場の稼働率が20%くらい上がったかんじがする、といわれています。

ネットワーク組織

大三紙業の参考資料として松井さんが幾つか述べておられます。

 http://www.daisan.com/others/dl.html

をアクセスしていただいて、その飛び先のページの一番下にある、
「■DAISANが紹介されました」以下の

  • 「企業を支える“自律神経”としての基幹システムがもたらした変革」(PDF形式 230KB)
     ASTEC WORLD Vol.47 ニューロン & コラボレーション(2001年12月号)
  • 「コンバータの情報化戦略についての一考察」~基幹情報システムを構築した中小コン
     バーターの事例研究として~(PDF形式 439KB)コンバーテック(2003年1月号)

をご覧ください。e-japan以来、情報システムはあまり経営に役立たないのではないか、というような雰囲気もありますが、しっかりした視点で情報システムを構築し、それを経営の神経としてどう使ってゆくのか、がとても重要だと私は考えています。

このシステムをつくった安光正則さん(株式会社アトリス)は次のように言われています;

 大三紙業さんは10年前Javaが出たばかりのときJavaで基幹系を作るレファレンスとして日本サンで受注したもので、包装紙の生産管理システムです。愛知県豊橋市で会社組織は非常に日本的な会社で会社が家族のようで地域社会にもとけこんでいるようです。ただしマーケットは日本全体であり、中国の一部もあります。生産管理ですので 計画、指示、実績 モデルになります。ERP の教科書どうりに DBの一元管理、すべての情報のリアルタイム表示を目指しました。
 基幹システムが動き出して、驚いたのは今までとは異なる人間関係が発生したことです。システム導入以前は、現場のブルーカラーといわれる社員はホワイトカラーなる社員からの指示どうりに働いていました。 基幹システムが稼動後 日次、週次、月次の生産計画がブルーカラーの社員にも端末から簡単に見ることができるようになりました。そうすると 現場のブルーカラーの社員が 生産計画に クレームをいうようになったとのことです。より合理的な計画があるとの 現場からのフィードバックが可能になったのです。
 大三紙業さんと顧客はインターネットでつながれており顧客は自分の会社の製品の在庫や仕掛品 今からの計画まで見れるようになっています。そのため 以前は顧客のクレームは営業経由できていたのが顧客から現場のブルーカラーの社員に直接にクレームが来るようになりまた。営業から文句を言われると 現場がへそをまげて 社内が暗くなったそうですが お客さんからの クレームには 素直に対応可能に なったそうです。

 以上でわかるように、 管理するホワイトカラーと 管理されるブルーカラーの階層が存在しなくなったようです。当たり前ですが会社全体の情報が社長から現場の作業員まで同じに土俵になったため、おのおののポジションの社員が自立的に自己主張が可能になったのです。終身雇用で年功序列のような会社ですのでかえって自己主張ができやすいのではないかと思います。すべての会社がそうなるとは思いませんが日本的というか、会社共産主義のような組織の方がERPのような情報システムを導入するとうまく組織が活性化するのではないかと思われますが いかがでしょうか。

図3はここで安光さんが言われているこことをイメージ化したものです。

図3 計画と電場の連携-フィードバックを持つ計画-

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